この記事で分かること(3行サマリ)
- 「公平とは何か」への答案を、下書きと清書の2通で見ます。語数はどちらも64語。清書には具体例が1文入りました。点数は9点→11点(内訳は文法+1・語彙+1)です。
- 具体例を入れるために、生徒は「反対意見の前置き」を削り、後半の2文を1文にまとめました。具体例は語数を食うものではなく、語数の使い道を変えるものです。
- ただし、具体例で内容点が自動的に上がったわけではありません。例を点に変えるには、あと一言いる——その「一言」まで示します。
これまでの2本の添削事例(ChatGPTは10点、Geminiは11点、私たちは4点。/定義は合っていた。それでも6点/16点。)で、繰り返し出てきた指摘があります。「具体例がない」です。
今回は、その具体例が入った答案です。同じ生徒(Lさん)の2問目、課題は fair。この答案は少し珍しい経緯で、下書きと清書の両方が提出されました。しかも清書は、添削を受ける前に本人が自分で見直して書いたものです。つまり「添削なしで、自分の見直しだけで何が変わるか」が、そのまま見られます。
課題と、下書きの答案
2 (A) 以下の問いに、60〜80語の英語で答えよ。
What does it mean to be fair?(公平であるとはどういうことか)
まず下書きです(原文ママ・64語)。
To be fair means providing some opportunity to everyone. Some people say fairness and equality have no differences, but the latter focus on results while former pay attention to the starting line. However, even people got exactly same opportunity, their environment or education sytem can effect how much they can utilize their opportunity. Therefore, to be fair does not always means to solve disparity.
「公平とは全員に機会を提供すること。公平と平等は同じだという人もいるが、後者は結果を見るのに対し、前者はスタートラインを見る。しかし、まったく同じ機会を得ても、環境や教育制度によって、それをどれだけ活かせるかは変わる。したがって、公平であることは必ずしも格差を解消することではない」——という内容です。
下書きの採点:9点/16点
| 観点 | 配点 | 下書き |
|---|---|---|
| ① 内容(設問適合) | 6点 | 5点 |
| ② 構成・論理 | 3点 | 3点 |
| ③ 文法 | 5点 | 0点 |
| ④ 語彙・表現 | 2点 | 1点 |
| 合計 | 16点 | 9点 |
内容と構成は高い評価です。「公平=全員に機会を提供すること」は fair の中核(機会の平等)を正面から捉えていますし、そのうえで fairness と equality を区別し、「equality は結果を見るが、fairness はスタートラインを見る」と説明しています。東大型の定義問題で評価されやすい、一段深い切り分けです。
一方で、課題は2つありました。具体例がないことと、文法の見直し漏れが6か所あって文法が0点になったことです(イエナアカデミーの基準では文法ミス1か所につき−2点。3か所で0点に到達します)。
清書の答案:同じ64語
こちらが清書です(原文ママ・64語)。
To be fair means providing the same opportunity to everyone. For instance, establishing a compulsory education systems can be considered fair. Also, fairness and equality mean different things; the latter focuses on results while the former places importance on starting line. However, since people’s individual circumstances can affect how much they can utilize their opportunities, to be fair does not necessarily mean eliminating disparities.
2文目に、具体例が入りました。「たとえば、義務教育制度を設けることは公平だと言える」。
清書の採点:11点/16点
| 観点 | 配点 | 下書き | 清書 |
|---|---|---|---|
| ① 内容(設問適合) | 6点 | 5点 | 5点 |
| ② 構成・論理 | 3点 | 3点 | 3点 |
| ③ 文法 | 5点 | 0点 | 1点 |
| ④ 語彙・表現 | 2点 | 1点 | 2点 |
| 合計 | 16点 | 9点 | 11点 |
ここからが本題です。具体例は、この答案に何をもたらしたのか。そして、何をもたらさなかったのか。
効果1:語数を1語も増やさずに、例が入った
「具体例を入れたいが、語数が足りない」——これは東大英作文でいちばんよく聞く悩みです。この清書は、その悩みへの答えになっています。下書きも清書も64語。例の分の語数は、どこから来たのでしょうか。
| 箇所 | 下書き | 清書 | 語数の増減 |
|---|---|---|---|
| 定義 | providing some opportunity | providing the same opportunity | +1 |
| 具体例 | (なし) | For instance, establishing a compulsory education systems can be considered fair. | +11 |
| 対比 | Some people say fairness and equality have no differences, but the latter … | Also, fairness and equality mean different things; the latter … | −3 |
| 留保と結論 | However, even people got … their opportunity. Therefore, to be fair does not always means to solve disparity.(2文) | However, since people’s individual circumstances can affect …, to be fair does not necessarily mean eliminating disparities.(1文) | −9 |
削ったのは2か所です。
- 「同じだと言う人もいるが」という反対意見の前置き。定義問題では、反対意見を紹介しても点にはなりません。「両者は別物だ」と言い切るだけで足ります。
- 後半の2文を1文に。「しかし〜。したがって〜。」と分けていたところを、since(〜なので)で理由と結論を1文につなぎました。これで9語浮きます。
浮いた12語が、そのまま具体例の11語になりました。具体例は語数を食うのではなく、語数の使い道を変える——前回の記事で書いた原則が、生徒自身の手で実現された形です。
効果2:定義に「実物」がつき、後半が読みやすくなった
下書きの定義は「全員に機会を提供すること」でした。正しいのですが、抽象的です。読み手は「機会とは、たとえば何のことか」を自分で補いながら読み進めることになります。
清書では、定義の直後に「義務教育制度」という実物が置かれました。これは単なる例示ではなく、「同じ機会を与える制度」という、定義そのものを支える例になっています。読み手は「fair=機会の話だ」という前提をしっかり握ったまま後半に入れるので、最後の「公平は必ずしも格差の解消を意味しない」が、結果の格差の話だと読み取りやすくなる面があります(ただし後述のとおり、格差の対象そのものは明示されていません)。
実は下書きのほうは、この後半が読み手に負担をかける構造でした。even (if)(たとえ〜でも)で始まる譲歩の文は、英語の論説文では「だから機会だけでは足りない」という方向に続くことが多い型です。Lさんは同じ観察から逆の方向(だから公平の守備範囲は結果まで及ばない)へ進んでいて、筋は通っているのですが、読み手の予測とずれます。実際、この下書きは添削側も一度「根拠と結論が逆では?」と読み違え、訂正しました。
清書では、even if が since に変わり、理由と結論が1文に収まったことで、読み手が予測を固める前に結論が届くようになっています。具体例で定義を固定し、接続詞で方向を宣言する。この2つが揃うと、60〜80語の短い答案でも誤読されにくくなります。
効果3:それでも、内容点は動かなかった
正直に書きます。内容点は、下書きも清書も5点/6点でした。具体例が入っただけでは、点は動いていません。
理由は2つあります。
- 例に理由がついていない。 「義務教育制度は公平だと言える」で終わっていて、なぜ公平なのか(全員に同じ機会を与えるから)が書かれていません。例は「置く」だけでは半分で、「定義と結びつける一言」があって初めて点になります。
- disparities が「何の格差」か書かれていない。 機会の格差なら定義と矛盾し、結果の格差なら整合します。Lさんは後者の意味で書いていますが、読み手に補わせています。in outcomes の2語で塞げる穴です。
つまり、具体例を点に変えるには、あと一言いる。これがこの事例のいちばん大事な教訓です。
前回の記事では「具体例1文が内容点を動かす」と書きました。より正確に言えば、動かすのは定義に結びついた例です。前回の wise の書き直しで内容点が3点→5点に動いたのは、例に「賢い人はこう振る舞う」という行動の描写がついていたからでした。今回の例には、その結びつきの一言が欠けています。
ちなみに、清書で上がった2点の内訳は、文法(0点→1点)と語彙(1点→2点)です。下書きにあった文法6か所・語彙3か所の指摘は、清書ではすべて消えていました。添削を受ける前の、本人の見直しだけでです。
指摘一覧(下書き9項目と、清書で残った2項目)
下書きに対する指摘です。1〜6が文法(各−2点で0点)、7〜9が語彙・表現(まとめて−1点)。右端は、清書で本人がどう直していたかです。
| # | 下書き | 修正 | 何の誤りか | 清書では |
|---|---|---|---|---|
| 1 | the latter focus | the latter focuses | 三単現 | 直っていた |
| 2 | while former pay | while the former pays | 冠詞+三単現 | 直っていた(the former places) |
| 3 | even people got exactly same opportunity | even if people get exactly the same opportunity | if 抜け・時制・冠詞 | 文ごと書き換え(since 〜) |
| 4 | education sytem | education system | スペル | 直っていた |
| 5 | can effect | can affect | affect(動詞)と effect(名詞)の混同 | 直っていた |
| 6 | does not always means | does not always mean | does の後は原形 | 直っていた |
| 7 | providing some opportunity | providing equal opportunities | some では弱い | 直っていた(the same opportunity) |
| 8 | have no differences | are the same | 自然な言い方 | 直っていた(mean different things) |
| 9 | solve disparity | close the gap / reduce inequality | コロケーション | 直っていた(eliminating disparities) |
清書で新たに残ったのは、次の2か所だけです。
| # | 清書 | 修正 | 何の誤りか |
|---|---|---|---|
| 1 | a compulsory education systems | a compulsory education system | a と複数形の衝突 |
| 2 | places importance on starting line | places importance on the starting line | 冠詞 |
どちらも「a / the / 単数・複数」です。書き終わりの1分でこの3点だけを見る習慣がつけば、文法の失点は大きく減らせます。
書き直し例(77語)
清書をもとに、文法2か所を直し、具体例に理由をつけ、格差の対象を明示した例です。変えたのは太字の部分だけで、それ以外は清書のままです。
To be fair means providing the same opportunity to everyone. For instance, establishing a compulsory education system can be considered fair because it gives every child the same chance to learn. Also, fairness and equality mean different things; the latter focuses on results while the former places importance on the starting line. However, since people’s individual circumstances can affect how much they can utilize their opportunities, to be fair does not necessarily mean eliminating disparities in outcomes.
- 例に「なぜ公平なのか」(全員に同じ学ぶ機会を与えるから)を足した
- disparities に in outcomes を足し、「結果の格差」だと明示した
- systems → system、on the starting line の2か所を直した
清書に対して足したのは13語です。例を置く語数より、例を定義に結びつける語数のほうが、点には効きます。
この事例から言えること
- 具体例の語数は、前置きと接続詞から捻出できる。 反対意見の紹介、「しかし〜。したがって〜。」の2文構成——ここを削れば、60〜80語でも例は入る。
- 例は定義の直後に置く。 定義に実物がつくと、読み手が前提を握ったまま後半を読める。
- 例は「置く」だけでは半分。 「なぜそれが定義に当てはまるのか」の一言があって、初めて内容点になる。
- 自分の見直しは、思っているより効く。 Lさんは添削を受ける前の清書で、指摘9項目をすべて消していた。下書きを一度寝かせて読み直しただけで、この事例では2点動いた。
東大英作文の全体像は東大英作文の完全ガイドに、定義型(What does it mean to be 〜?)の書き方は定義型の書き方に、頻出の減点は東大英作文でよくある減点ポイントにまとめています。同じ生徒の1問目の添削は定義は合っていた。それでも6点/16点。をご覧ください。
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※採点基準について:東京大学は英作文の採点基準を公開していません。本記事の点数はすべて、受講生が受験した駿台の東大実戦・河合塾の東大オープンの答案採点実績と、合格者の得点開示との照合を積み重ねてイエナアカデミーが独自に設計した基準(駿台方式16点満点=内容6・構成3・文法5・語彙2)によるものです。東京大学および各予備校の関係者は本コース・本記事に一切関与していません。
※採点はイエナアカデミーの専門家が設定した採点基準の上でAIが行っており、その正確性は保証しておりません。厳密な判断については信頼のおける方にお尋ねください。なお、AIは語数のカウントが苦手なため、語数による減点は行っていません。
※答案の掲載について:生徒の答案は本人の同意のもと、匿名化して掲載しています。
